木彫教室[第15回]-ツールを砥ぐ(1)-

切れるツールとは

 彫刻に使用するツールは、本当に切れるものでなくては、良い仕事を行うことはできません。

 これは当たり前の事のように聞こえますが、その実、切れるツールとは一体どういうものなのか?普通の木工作業で使うツール類が”切れる”ということと、彫刻ツールが”切れる”ということは、意味的に同じことを指しているのか?あるいは違うのか?そういった疑問を感じたことはないでしょうか?(無いかも知れませんが)

 この回では、”切れる”ツールとはいったいどういうツールのことを指すのか?という幾分アカデミック話題が展開されます。

 一般的な、比較的安価な木工用チゼル(平ノミ)をホームセンターで購入し、使ってみるとすぐに気がつくと思いますが、買ったままの刃先の状態では、木工彫刻の使用に十分耐えうるものになっていません。

 学校で行う技術家庭の授業で、ノミの使い方やカンナ刃の仕込み方など、授業で教えることは皆無ですし、教える先生の方も工具の刃を研いだ経験などほとんど無いというのが現状でしょうから、ホームセンターで買った工具類がすぐには使えないという事実を教えると、ほとんどのノービス学習者は驚いてしまいます。

 新品の物なのに切れないの?これは彼らが発する第一声です。

 はい、そうです。そういうものなのです。”すぐ使い”(すぐに使えるという意味)の工具を買ったとしても、必ず研磨してください、と話すようにしています。

 実際のところ、刃先の状態というものは、カミソリの刃と同じように切れなくてはなりませんが、購入した直後というのは、そのようになっていないのが一般的なのです。

 はじめてツール(彫刻刀)を購入したとき、刃先は一般にグランド状態(こすって研いだ状態、ザラザラ状態、工場研ぎ状態)と呼ばれる状態になっています。(グランド状態の説明は後ほど)

ガウジの刃先
ガウジ刃先断面図

 この状態のままでは、思うような彫刻ができませんので、刃先を本当に鋭く、よく切れるようにするため”仕上げ”をかけなくてはなりません。彫刻刀ツールの場合、この”仕上げ”はオイルストーンという砥石を使って研磨して仕上げます。

 ただし研磨する際、木工ノミの刃先を研ぐ方法と、違う注意すべきポイントがあります。

 今回はこの話題についての説明です。

 カービングツールを本当によく切れる状態にするためには、実はとても長い時間がかかります。購入してきて使い初め、すぐに満足いくような切れ味を示すようなツールに出会うのは、実は稀なことです。

 このため、プロの彫刻家の使用した中古ツールは、e-bayなどのインターネット中古品市場で非常に人気が高く、多くの人に求められ続けています。

 カービングツールが、このような側面、すなわち良く切れるようになるまである程度の期間が必要という側面を持つ主となる理由は、ガウジには外側にも、内側にもbevel(シノギ面)があるということに由来します。

 シノギと言いましたが、bevelは文字通りなら”傾斜”を表わす単語で、日本語でいう”シノギ”とは違うものです。

 つまり何が言いたいかというと、和ノミの語彙が指すシノギと、今話題にしているBevelは若干ニアンスが異なります。このニアンスの違いについて、考察していきます。

 クラフトマンによっては、丸い面に簡単に沿えるように、外側のシノギ面のheel(肩)をそぎ落としたりします。ここでいうheel(肩)とは、シノギ面が終わるところの場所を指します。heelの角はしばしば持ち主によって、グラインダーで取り除かれたります。(ハガネの端を”ミミ”といいますが、ミミのようにのheelの端の部分をさしています)

 この加工は、特に特別な目的のためにリザーブされているツールによく見られる加工です。しかし、結局のところ、これらの詳細は個人の趣向の問題です。

 平ノミでは外側で多くフラットに加工されたりまします。

 重要なところは次です。

 内側のシノギが関係する限り、cutting circleが大きくなると、曲面に習ってツールを押すことがより簡単になることは明らかです。特に、先のとがったガウジの場合、それは顕著になります。

 ここの部分がよくわからないと思いますので詳しく解説します。(今日の解説は、本当にこの部分だけです)

 cutting circleとは内側のしのぎ面の面積のことで、簡単にいうなら、シノギ面が大きくなると、ガウジで”押す”のが楽になるということを言っています。

 注意していただきたいポイントは、”cutting circle”といっていることです。”面”ではなく”切断曲面”です!

研磨後の刃先断面

 つまり、内側のシノギ面は和ノミでいうところの”丸っ歯”になっているとうことを言っています。

 日本式ノミの場合、歯裏は裏出しをしたあと、ほとんど調整することはありません。 そして、歯裏も、シノギ面もどちらも平らに整形する(砥ぐ)ことが良しとされます。

 もっとわかりやすくいうと、和ノミは2つの平面が合わさって歯を形成しているのに対し、ガウジは、2つの円筒面が合わさって歯を形成しているとイメージできると思います。
これが、日本式ノミで言うところの”丸っ歯”です!

 ただし、1つの平面と1つの円筒でもありません。

 両方とも円筒の面であることが、彼らの言っている”歯”なのです。

 副作用として、円筒面が2つ合わさると、”長切れ”(長時間、研がずに切れるという意味です)に問題が生じます。

 だから、すぐに切れなくなるので、頻繁に研ぐのです!

 2つの円筒が合わさると書きました。
 想像するとわかると思いますが、単に円筒を重ねるだけではおそらく切れる刃物はできません。理想的な形で鋭角に刃先が円筒形になる必要があります。

 この段の最初の方に書きました、プロの中古の彫刻刀の話、理想的に切れる刃物を作るには、長い時間が必要だということですが、理想的な局面を得る、、、そこが重要です。そこまで、使い続けなければ、曲面にならない、使い続ける必要があるということを表しています。

 ツールの製造時に曲面を作るのは、平ら面を得るよりはるかに難しいことなのです。

 また、

 買ったばかりのツールはグランド(ground)状態であるとも書きました。

 木工用語でいうなら、ベタになっているという意味で取ってもらっても構いません。

 それはすなわち、刃先が曲面に仕上がっていないということを表しており、それをオイルストーンでよく切れる”丸っ歯”に仕上げるという意味です。

 カミソリの刃先では駄目だというのは、こういう意味です。

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